最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)211号 判決 1949年8月18日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人松本茂上告趣意第二点について。
しかし、刑法第四七條の併合罪における最も重き罪につき定めた刑を決定するには、法定刑中二個以上の有期の懲役刑又は禁錮刑すなわち各本條に二個以上の刑名あるときは、まず適用すべき有期の懲役刑又は禁錮刑を選択した上、これに再犯加重、法律上の減軽を行った処断刑のみを標準として同法第一〇條に從い決すべきもので、各本條に併科的又は選択的に規定せられている死刑、無期刑又は罰金刑等を比較の対照として定むべきものでないこと同法第四六條乃至第四八條及び同第七二條の規定に照し明らかなところである。此の点に関し、真野裁判官は、「併科刑の定めある場合の刑を対照してその軽重を定めるについては、重点的にその中の重い刑のみにつき対照をすべきであることは当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第二二二号、同二三年四月八日第一小法廷判決、判例集二巻三〇七頁以下)」としている。しかし、この判例は、刑法第五四條第一項の場合において法定刑を比較するときの判例であって、いわゆる処断刑の場合を包含しないことは同判例の明言しているところである。從って本件においてこの判例を引用することは全然適切でないのみならず、既に法定刑を選択し、これを修正して処断刑を形成しながら、その後に至り遡って更に法定刑を重点的に対照して刑の軽重を定めようとするがごときは理論上矛盾する見解であるばかりでなく、実際上においても例えば殺人罪の有期懲役刑と強盗罪の有期懲役刑とを刑法第四七條第一〇條により併合加重を爲す場合にも殺人罪につき定めた懲役刑を重しとする不都合を生ずるであろう。そして本件においては、被告人の判示各窃盗、賍物寄藏、同故買は併合罪で窃盗罪に対する各法定刑は十年以下の懲役であり、賍物寄藏、同故買に対する各法定刑は十年以下の懲役及び千円以下の罰金であるところ、被告人には、判示前科があるから同法第五六條第一項第五七條により懲役刑についてはそれぞれ再犯加重を爲すべきである。從って刑法第四七條の有期の懲役刑についてはいずれも長期及び短期を同じくする二十年以下の懲役に処すべき場合であるから、同法第一〇條第三項に從い犯情によりその最も重しと認むべき罪につき定めた懲役刑に同法第一四條の制限内において併合罪の加重を爲し、罰金刑については同法第四八條に從い合算額以下において併科すべきである。されば法律の適用において右と同一趣旨に出た原判決が犯情により判示第三の窃盗につき定めた懲役刑を重しと認めたからといって擬律錯誤の違法があるとはいえない。論旨は採ることができない。(その他の判決理由は省略する)
同第二点についての裁判官真野毅の少数意見は次のとおりである。
本件においては、被告人の判示各窃盗、賍物寄藏、同故買は併合罪である。そうして、窃盗罪に対する法定刑は十年以下の懲役であり、賍物寄藏、同故買に対する法定刑は十年以下の懲役及び千円以下の罰金である。その上本件は併合罪であると共に判示前科があるから、同時に併合罪の加重と再犯加重を行うべき場合に該当する。それ故、その刑の加重の順序は、再犯加重を先にし併合罪の加重を後にすべきものである(刑法第七二條)。そこで先ず、前記犯罪に再犯加重をすると、窃盗罪に対する刑は二十年以下の懲役となり、賍物寄藏、同故買に対する刑は二十年以下の懲役及び千円以下の罰金となる(刑法第五六條第一項、第五七條)。次に、前記犯罪に併合罪の加重をするに当っては、刑法第四七條の「併合罪中二個以上の有期の懲役……に処すべき罪あるときは、其最も重き罪に付き定めたる刑の長期に其半数を加えたものを以て長期とす」との規定に從って、先ず最も重い罪を選び出さねばならぬ。そして、本件では二十年以下の懲役の單独刑と二十年以下の懲役及び千円以下の罰金の併科刑とを対照すべきこととなる。論旨は、後者をもって重しとする。しかしながら、併科刑の定めある場合の刑を対照してその軽重を定めるについては、重点的にその中の重い刑のみにつき対照をすべきであることは当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第二二二号、同二三年四月八日第一小法廷判決、判例集二巻四号三〇七頁以下)。從って、本件では軽い罰金刑を度外視して重い懲役刑のみについて対照すべきであり、その懲役刑は何れも二十年以下で長期も短期も同じであるから、刑法第一〇條第三項により犯情により刑の軽重を定むべきこととなるのである。それ故、原判決が「同法第四七條、第一〇條に則り被告人等に対しては各犯情最も重いと認める判示第三の窃盗罪」を選び出し法定の加重をしたことは、もとより正当である。論旨は理由がない。
よって旧刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。
この判決は論旨第二点に対する真野裁判官の少数意見を除くの外裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)